前回は、「バレエ」と「ダンス」について、2つの踊りはどう違うのか?をテーマにして、バレエの発展や歴史的な変化、さまざまなダンスの種類についてご紹介しました。今回はバレエをさらに詳しく掘り下げて、「クラシック・バレエ」と「モダン・バレエ」のそれぞれの特徴や違い、衣装や表現などについてご紹介していきます。
2回に分けて掲載します。 「クラシック・バレエ」と「モダン・バレエ」の違いは?
第1回目<前編>:(←今回はココです)
- 1.クラシック・バレエの背景 ~その歴史と様式~
- 2.モダン・バレエの特徴 ~衣装や表現~
第2回目<後編>:
- 3.クラシック・バレエとモダン・バレエの特徴と違い
- 4.モダン・バレエ その先へ ~コンテンポラリー・ダンスとは?~
- 5.それぞれの衣装の違い ~クラシック・バレエ、モダン・バレエ、コンテンポラリー・ダンス~
- 6.どちらを習う? クラシック・バレエとモダン・バレエ
(文中の強調したい部分は太字、特に「クラシック・バレエ」と「モダン・バレエ」の特徴や違いに関係する部分には下線を引いています)
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「クラシック・バレエ」と「モダン・バレエ」の違いは?
バレエと一口にいっても、クラシック・バレエ、モダン・バレエ、あるいは物語バレエ、抽象的なバレエなど様々な種類があります。トウシューズをはいて踊るのがクラシック・バレエでしょうか?現代作品でもトウシューズでスピーディーに踊るものもあります。クラシック・バレエは古典的でモダン・バレエは近代的、そんな漠然としたイメージは持てても、具体的に何が違うのかとなると、どうもよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
まずはバレエの歴史を紐解きながら、「クラシック・バレエ」と「モダン・バレエ」がどのように生まれてきたのか、その特徴や違いを見ていきましょう。
1.クラシック・バレエの背景 ~その歴史と様式~
バレエは、ダンス、音楽、美術からなる総合芸術としてヨーロッパの宮廷で生まれました。宮廷のアマチュアによる踊りが、「見せるための踊り」に大きく変化するのは、1661年フランスに王立舞踊アカデミーが創設されてからです。
「見せるダンスを踊る身体」を作り上げるための厳格な規律=〈ダンス・クラシック〉技法を、徹底的にたたき込まれたプロのダンサーが養成され、バレエは特別な身体を持ったプロが踊る劇場芸術となったのです。
◇ロマンティック・バレエの成立
19世紀前半になると、爪先で立つ技法が生まれます。ロマンティック・チュチュと呼ばれる薄いチュールを重ねた釣り鐘型のスカートを着て爪先立ちで踊る女性ダンサーは、まるで妖精のようだと大人気に。未知の世界への憧れを描くロマン主義と深く結びついたこの時代のバレエを「ロマンティック・バレエ」といいます。代表作は『ラ・シルフィード』(1832年)、『ジゼル』(1841年)です。
◇クラシック形式の確立とクラシック・バレエの特徴
19世紀後半、バレエの中心はフランスからロシアへ移ります。フランスから招かれたマリウス・プティパにより、〈ダンス・クラシック〉技法はより高度で洗練されたものになりました。女性のチュチュも腰から横に広がった形となり、脚のラインが見えるようになります。
『ドン・キホーテ』(1869)、『バヤデルカ』(71)、『白鳥の湖』(85)、『眠りの森の美女』(90)、『くるみ割り人形』(92)など、今なお多くの観客に愛されている作品に共通するのは、幻想性を生み出す様式性の高い群舞、高度なテクニックを盛り込んだソリストたちの踊り、アダージョ、ヴァリエーション、コーダから成るグラン・パ・ド・ドゥが入っていること。プティパは「これぞバレエ!」という形式を作り出し、それがクラシック・バレエの大きな特徴となりました。
◇クラシック・バレエとは?
プティパのバレエは「古典バレエ=クラシック・バレエ」と呼ばれます。クラシックというのは、規範や形式美を重んじる古典主義的、という意味です。
ここまで読んで、疑問が浮かんだ方もいらっしゃるでしょう。「クラシック・バレエ=プティパ作品?『ジゼル』はクラシック・バレエに入らないの?」狭い意味では、クラシック・バレエとはプティパが確立した様式性の高いバレエを指します。ロマンティック・チュチュとクラシック・チュチュが違うように、舞踊史的にはロマンティック・バレエと古典バレエ(クラシック・バレエ)は区別されています。ですが、より大きな意味で「クラシック・バレエ」は、17世紀後半フランスで生まれ19世紀末までに完成された、バレエの技法を基盤とした舞踊を指す言葉として用いられます。この意味では、ロマンティック・バレエもクラシック・バレエの一部ということになります。宮廷バレエ、ロマンティック・バレエ…バレエはその時代の趣味や嗜好を反映して様々なスタイルに変化しながら発展してきましたが、一貫した基盤はあくまでも〈ダンス・クラシック〉技法なのです。
◇クラシック・バレエの衣装
(左)ロマンティック・チュチュ (右)クラシック・チュチュ
(左) <ロマンティック・チュチュ> 妖精のように薄いチュールを重ねた釣り鐘型のスカート。この時期にバレエ独特の爪先立ちの技法が生まれました。
(右) <クラシック・チュチュ> 脚のラインが見えるように、腰から横に広がった形のスカート。この時期にバレエはより高度で洗練されたものになっていきます。
2.モダン・バレエの特徴 ~衣装や表現~
大きな意味での「クラシック・バレエ」に対して、より自由な新しいバレエは「モダン・バレエ」と呼ばれますが、明確な定義はありません。試しに『オックスフォード バレエダンス事典』で調べてみましょう。「モダン・バレエ」という項目はありません。ここでは「モダン・バレエ」とは20世紀以降に誕生した、技法や様式にとらわれず自由に身体を使って表現するバレエ作品としておきましょう。
この新しいバレエは、バレエ・リュス(20世紀初頭に芸術に革新的な影響を与えたバレエ団)で活躍した振付家ミハイル・フォーキンや、不世出のダンサーと言われるヴァツラフ・ニジンスキーらから始まったとされます。フォーキンはプティパの様式主義に反発、自由な表現を追及しました。彼に影響を与えたのがモダン・ダンスの祖、イサドラ・ダンカンです。コルセットで固められた窮屈な衣装やシューズを脱ぎ捨て、裸足で踊るダンカンを観たフォーキンは、それまでのバレエで確立された〈ダンス・クラシック〉技法にはない内股などの動きを取り入れ、動きを多様化させ、ダンスの表現力を押し広げました。
◇モダン・バレエの衣装
フォーキンの『シェヘラザード』(1910)を見てみましょう。舞台がアラビアということもあり、女性ダンサーはコルセットから解放され、色鮮やかなハーレムパンツ、足元はバレエシューズです。ヘアもきちっと結い上げていません。大きく反った背中のライン、全身を波立たせるように使う動きは、クラシック・バレエには見られなかったものです。パ・ド・ドゥでは男女が纏いつき絡み合い、なんとも官能的です。
◇クラシック・バレエとモダン・バレエ それぞれの特徴と表現の違い
クラシック・バレエでは、規範を守ったうえで表現することが求められます。物語があるからといって感情に任せて動くことはできません。例えば『眠りの森の美女』第3幕はオーロラ姫と王子の結婚式、二人はグラン・パ・ド・ドゥを踊りますが、「好き!」という感情を直接的に表わすわけではありません。格調高く、理想的なスタイルや正確で端正なテクニックを実現し、その上で滲み出す幸福感、音楽との一体感、息の合ったパートナーシップで、観客を非日常の世界へと運んでいかなければならないのです。
モダン・バレエに分けられる『シェヘラザード』の溢れだす官能美と比べると、違いがよくわかるでしょう。『ペトルーシュカ』、『韃靼人の踊り』などフォーキンの作品は、構成も衣装も雰囲気もそれぞれ全く異なっています。ヘアスタイルや衣装にしても、クラシック・バレエが小さく結ったシニヨンとチュチュ、トウシューズが基本であるのに対して、モダンは自由度が高く多彩です。動きもしかり、ニジンスキー振付の『牧神の午後』(1912)に至っては、バレエらしい回転や跳躍は一切ありません。動きをどれだけそぎ落とせるのか、動かないことで何が表現できるのかを問いかける、まったく新しい挑戦でした。
◇モダン・バレエ 様々な振付家と衣装
その後もジョージ・バランシン、モーリス・ベジャール、ローラン・プティなど様々な振付家が独自の美意識に基づいた作品を次々と生み出し、バレエの世界は大きく拡張されながら発展を続けています。衣装も伝統的なチュチュだけでなく、レオタードやユニタードなど装飾を廃し身体の線を見せるもの、ファッションデザイナーとのコラボレーションなど変化に富んでいます。トウシューズ、バレエシューズ、裸足、さらにはスニーカーやヒールまで、足元も様々です。
文・守山実花(バレエ評論家)
ヨーロッパの名門バレエ団で活躍中のダンサーが出演し、夢の競演を果たします!
■「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年8月3日~8月4日
【開催地】東京
■「バレエの妖精とプリンセス ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年7月26日~8月12日
【開催地】神奈川、群馬、愛知、大阪、宮城、秋田 ほか
▼その他の公演情報▼
■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定 ※詳細は24年8月発表予定
■ ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月開催予定
※詳細は2024年7月発表予定