バレエとダンス
「バレエ」と「ダンス」、どちらも踊ることに違いはありませんが、同じスタイルではありません。「バレエ」と単純に表現してもそれは時代に沿って変化を遂げていますし、一括りに「ダンス」と言っても数多くの種類があります。踊りがどのように発展していったのか、大きな流れがわかるように、バレエの簡単な歴史と共に、さまざまなダンスの種類と特徴をご紹介します。
2回に分けて掲載します。
第1回(前編):(←今回はココです)
- Ⅰ.バレエとは?
- Ⅱ.バレエとダンスの違いとは? ~バレエから派生した新しいダンスへ(モダン・ダンス、モダン・バレエ、コンテンポラリー・ダンス)~
第2回(後編):
- Ⅲ.ダンスとは?:さまざまなダンスの種類 (ジャズ・ダンス、ストリート・ダンス、社交ダンス、その他)
- Ⅳ.バレエとダンス 自分で習うとしたら?
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Ⅰ バレエとは? ~歴史の流れと変化~
◇「宮廷バレエ」の隆盛 ─ルイ14世
バレエは16世紀に生まれました。「バレエはイタリアで生まれ、フランスで育ち、ロシアで花開いた」と言われています。諸説ありますが、16世紀に宮廷で夜毎行われていた宴の余興として貴族たちが踊っていたのが始まりです。1533年にフィレンツェの大富豪、メディチ家のカトリーヌ・ド・メディチがフランス王アンリ2世の元にお輿入れします。これによりイタリア宮廷文化がフランス宮廷に入り、イタリア風の貴族の宴の踊りが「バレエ」という名前で呼ばれるようになります。
フランスの太陽王ルイ14世は、1653年14歳の時に『夜のバレエ』という作品で太陽の役を演じました(映画『王は踊る』で、ルイ14世のダンス・シーンが出てきます)。ルイ14世はバレエを庇護し、1661年に王立舞踊アカデミー(現在のパリ・オペラ座バレエ)を設立します。これにより職業ダンサーが登場し、後にバレエの足の5つのポジションが定められます。1713年にルイ14世は、パリ・オペラ座バレエ学校の前身、舞踊学校を創設します。舞踊譜も整い、バレエは劇場でプロのダンサーが踊るものとなり、芸術の一ジャンルとして成熟していくのです。
◇「ロマンティック・バレエ」
19世紀はロマンティック・バレエの時代です。フランス革命、産業革命を経たヨーロッパでは、ロマン主義の時代を迎え個人の感性が尊重され、超自然的なもの、未知のもの、神秘的なもの、異国への憧れが芸術の主題となりました。1832年には『ラ・シルフィード』が上演されました。主役の妖精を踊ったマリー・タリオーニは、薄いチュールを重ねた膝が隠れるくらいの白いチュチュを身につけ、トウシューズを履き、つま先立ちでふわりふわりと浮遊感たっぷりに舞ったのでした。『ジゼル』(1841年)、『オンディーヌ』(1843年)、『コッペリア』(1870年)などこの時代に制作された人間ではない存在が登場する作品は、今でも上演されています。
◇マリウス・プティパ (古典バレエの確立)
フランスのロマンティック・バレエの振付家たちはロシアに渡り、教育者としても活動したのでバレエはロシア中に広まりました。マリウス・プティパ(1818-1910)もマリインスキー劇場にプリンシパル・ダンサーとしてやってきました。プティパはメートル・ド・バレエ(この時は振付家兼バレエ芸術監督)となり、自身の振付作品『ファラオの娘』、『ドン・キホーテ』、『ラ・バヤデール』、『眠りの森の美女』、『くるみ割り人形』、『白鳥の湖』(イワーノフと共作)、『ライモンダ』など40あまりの作品を発表しました。それによって古典バレエが確立したのです。
◇「古典バレエ(クラシック・バレエ)」の発展
さらに高度に進化したテクニックを自在に披露できるように、チュチュはぐんと丈が短くなり外に張り出した「クラシック・チュチュ」が着用され、クライマックスで踊られる「グラン・パ・ド・ドゥ」の形式が確立しました(=男女二人が入場するアントレ、男女で踊るアダージョ、次にそれぞれのソロのヴァリエーション、そしてまた二人で踊るコーダの順で踊られる)。さらに、主役以外のダンサーたちの見せ場となるディヴェルティスマン(余興という意味で、物語とは直接関係のない小作品的な踊り)が充実します。
その後、20世紀になると、ロシアからやって来たセルゲイ・ディアギレフが率いる「バレエ・リュス」がパリで大成功を収め、ヨーロッパで大センセーションを巻き起こし、バレエはさまざまな形へと変化していきます。
Ⅱバレエとダンスの違いとは? ~バレエから派生した新しいダンスへ(モダン・ダンス、モダン・バレエ、コンテンポラリー・ダンス)~
「バレエ」は踊りの一種として発生して、19世紀になって華やかに花開きました。そして20世紀になると次第にバレエを元にした新しい踊りが派生して、やがてコンテンポラリー・ダンスなどへと変化していきます。クラシック・バレエはそれらのスタイルの基礎となりました。ここでは、バレエから派生した踊りがどのように変化を遂げていったかを説明をします。
◇「モダン・ダンス」
20世紀初め、ロイ・フラー、イザドラ・ダンカン、ルース=セント・デニスという3人のアメリカ人女性ダンサーが登場します。彼女たちはモダン・ダンスの初期に活躍しました。いずれもバレリーナではありません。イザドラ・ダンカンは裸足で、チュチュではなくゆったりとした衣装を纏い、即興で踊りました。バレエが上流階級の社交場であるオペラハウスで上演され、様式美を重要視し、鍛錬を積んで実現する伝統芸術であることへの、アンチを提言したのです。新しいダンスの潮流として、モダン・ダンスは強烈な輝きを放っていきました。
1930年代にはマーサ・グレアムが、自らのメソッドを打ち立て体系化しました。人間の内面を内省的に追究するこのメソッドは高く評価されました。
モダン・ダンスは、バレエの様式美、規律などから解放されることを求めて、自由で抽象的、トウシューズは履かないことが特徴です。
◇「モダン・バレエ」
19世紀に確立した古典バレエに対して20世紀以降のバレエをモダン・バレエと呼ぶことがありますが、明確な基準はありません。20世紀初頭に前述の「バレエ・リュス」が古典バレエの枠から離れた作品を創りました。その影響を受けた、以降の近代のバレエを広く意味する場合が多いです。
トウシューズは基本的に履きますが、履かない場合もあります。衣装は古典バレエに比べてシンプルなことが多く、形式のみならず振付や選曲などはバレエよりも自由度が高く、抽象的なこともあります。文字通り現代に自由な発想で生み出されるバレエと言えます。
◇「コンテンポラリー・ダンス」
現在進行形、時代の最先端のダンスで「サムシング・ニュー」を追い求めています。バレエ、モダン・ダンスの要素が入っていることが多いですが、振付家・ダンサーのバックグラウンドによりさまざまです。コンテンポラリー・ダンスはスタイルに対する名称ではなく、取り組む芸術家の考え方に対してつけられる名称とも言えます。20世紀半ば以降に生まれた、感情を表現したり、物語、形式に導かれるのではない抽象的なダンスはすべて含めてしまう場合もあります。「なんでもあり」とも言えますが、すぐれた作品、パフォーマンスでは、高度なテクニックを習得しているからこその表現が見られます。
文・結城美穂子(編集者、ライター)
ヨーロッパの名門バレエ団で活躍中のダンサーが出演し、夢の競演を果たします!
■「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年8月3日~8月4日
【開催地】東京
■「バレエの妖精とプリンセス ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年7月26日~8月12日
【開催地】神奈川、群馬、愛知、大阪、宮城、秋田 ほか
▼その他の公演情報▼
■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定 ※詳細は24年8月発表予定
■ ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月開催予定
※詳細は2024年7月発表予定