Ballet Muses ₋バレエの美神(ミューズ) 2023- バレエピアニスト滝澤志野さんに聞くヤコブ・フェイフェルリックの魅力

元パリ・オペラ座バレエ団の大スターで、2020年までウィーン国立バレエで芸術監督を務めていたマニュエル・ルグリに才能を認められ、2011年からウィーン国立歌劇場でバレエ団専属ピアニストとして活躍する滝澤志野さん。「Ballet Muses-バレエの美神 2023-」に出演する、ウィーン国立バレエのオリガ・エシナとヤコブ・フェイフェルリック(現ミュンヘン・バレエ)は、稽古場で共に時間を過ごしてきた仲間であり、滝澤さんは誰よりも近くで彼らの成長を見守ってきました。そんな滝澤さんに今回、2人の魅力について、素敵なエピソードを交えながらご紹介いただきました。


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ウィーン国立バレエにヤコブ・フェイフェルリックが入団したのは、2013年のことでした。当時、若干16歳。付属のバレエ学校でトップの成績を修め、長身でこれまでにない正統派王子様タイプのヤコブには、入団当初から大きな期待が寄せられていました。学校時代から見てきたマニュエル・ルグリ監督がその才能を見出したダンサーです。

パ・ド・トロワやパ・ド・サンクで経験を積んできた彼にスポットライトが当たったのは入団3年目、2016年、アシュトン版『リーズの結婚』公演でした。主役コーラス役の代役に入っていたところ、急遽本公演で踊ることになったのです。しかも相手役は、学校時代からずっと一緒だった幼馴染のナターシャ・マイヤー! その頃のウィーン国立バレエでは、男性主役は盤石なメンバーで安定的に固定されていたので、ヤコブによって新しい風が吹くことを私も楽しみにしていました。
配役が発表された時は、自分のことのように嬉しかったですが、まだ19歳だった彼には大きなターニングポイントであり、かなりのプレッシャーだったことでしょう。「今のあなたに必要なのは、自分を信じる力」と声をかけたことを覚えています。その公演で立派に主役デビューを飾った彼は、それから瞬く間にスターへの階段を駆け上がることになります。

20歳で、ノイマイヤー版『アルミードの館』のニジンスキー、ヌレエフ版『ライモンダ』、『白鳥の湖』でたて続けに主役を踊り、コール・ド・バレエからソリストへと異例のスキップ昇進。そして、2019年22歳の時、ヌレエフ版『白鳥の湖』でプリンシパルに任命されました。短い間でしたが、2020年にルグリ監督が退任するまで、若い頃にしかないライジングスターの輝きを堪能できたウィーンの観客は(私も含めて)、本当に幸せでした。
端正な舞台姿で魅せるクラシックはもちろんですが、私はヤコブの真骨頂は物語バレエにあると思っています。クルグ振付『ペール・ギュント』、クランコ振付『オネーギン』のレンスキー、ドゥアト振付『ホワイト・ダークネス』など、踊りはもちろん、その演技力と雄弁にストーリーを語る力に目を見張りました。物語に没入させてくれる稀有なダンサーなのです。

ちなみに、余談ですが、ヤコブは責任感が強く、優しく、年齢に似合わず落ち着いた性格の持ち主で、主役を踊りながらも、劇場の労働組合の役員も務めて団員の為に働いてくれていました。

2020年にオランダ国立バレエへ移籍、そして、この秋からミュンヘン・バレエに移籍したヤコブですが、私には、いつか彼が『マノン』のデ・グリュー、そして『マイヤリング』のルドルフ皇太子を踊るのを観てみたいという夢があります。正統派で美しく心優しいデ・グリューはもちろん、天性の演技の才能があり、オーストリア人のヤコブが、破滅していくハプスブルク帝国の皇太子を踊るなら、それはものすごい公演になるに違いないと思うのです。
ルグリ仕込みのパートナリングにも長けているので、きっとマクミランの理想を体現するダンサーになるのではないかと夢想しつつ、日本での公演に心からのエールを送りたいと思います。オリガとの『こうもり』そして『ライモンダ』、ウィーンの人間にとっては、もはやドリームキャストです。素晴らしい公演になりますよう愛をこめて。


滝澤志野(Takizawa Shino)


ウィーン国立バレエ団ピアニスト。大阪府出身。幼少よりピアノ、作曲を学ぶ。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了 。在学時よりオペラとバレエの伴奏に携わり、舞台芸術のコレペティを志す。新国立劇場バレエ団等を経て、2011年にウィーン国立歌劇場と専属契約を結び、渡欧。バレエピアニストとして専門性を深めながら、ソリストとしてもウィーン国立歌劇場管弦楽団とピアノ協奏曲を度々共演。新書館から5枚のバレエレッスンCDと、ソロアルバム「Brilliance of Ballet Music」をリリース。バレエチャンネルに「ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記」を連載中、4年目を迎えている。



ヨーロッパの名門バレエ団で活躍中のダンサーが出演し、夢の競演を果たします!

■「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年8月3日~8月4日
【開催地】東京

■「バレエの妖精とプリンセス ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年7月26日~8月12日
【開催地】神奈川、群馬、愛知、大阪、宮城、秋田 ほか

その他の公演情報

■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定 ※詳細は24年8月発表予定

■ ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月開催予定
※詳細は2024年7月発表予定