男性バレエダンサーの活躍 ~世界の有名バレエダンサーと、世界で活躍する日本人バレエダンサー~

最近は以前にもまして男性のバレエダンサーが注目されるようになりました。バレエで男性ダンサーの存在が際立ようになったのはいつからなのでしょうか?今回は、男性バレエダンサーの系譜、その役割やバレリーナとの違い、そして、人気と実力を兼ね備えた世界の有名男性バレエダンサーと、世界で活躍する日本人バレエダンサーを紹介します。


  • 1.男性バレエダンサーの系譜 ―ニジンスキー、ヌレエフ、バリシニコフ、ジョルジュ・ドン-
  • 2.バレリーナと男性バレエダンサーの違い ~男性バレエダンサーの役割、見せ場やテクニック、衣装
  • 3.有名男性バレエダンサーの紹介
  •  世界の有名バレエダンサーたち20選 ―ルグリ、マラーホフ、ルジマトフ、ガニオ、ムンタギロフ、ポルーニン、ロヂキンほか―
  •  世界で活躍する日本人バレエダンサーたち ―熊川哲也、岩田守弘、堀内元、服部有吉、平野亮一ほか―

お得な情報配信中!
光藍社の公式LINE追加はこちら!


注目される男性バレエダンサーの活躍

国際的なコンクールでの日本人ダンサーの入賞や海外のバレエ団での活躍など男性バレエダンサーのニュースを目にする機会が増えています。映画やファッション等の世界で活躍する男性バレエダンサーも少なくありません。バランスよく鍛え上げられた男性バレエダンサーは注目の存在です。

1.男性バレエダンサーの系譜

◇20世紀に登場した伝説的なダンサー  ― ニジンスキー ―

 かつてはバレエと聞いて多くの人がイメージするのは、チュチュにトウシューズ姿の女性ダンサーでした。19世紀に大流行したロマンティック・バレエで人々の注目を集めたのは、幻のように妖精や精霊を演じるプリマ・バレリーナ。男性ダンサーの役割は、そのヒロインを支え、より美しく見せることにあったのです。20世紀初頭に登場したヴァツラフ・ニジンスキーは、高い技術、しなやかな肉体や観る者の記憶に長く残り続ける圧倒的な存在感で伝説的なダンサーとなりました。いわゆる男性らしさにとらわれない、中世的な魅力は現代を先取りしたものといえるかもしれません。

ヴァツラフ・ニジンスキー

◇銀幕でも活躍した、輝かしいスターダンサーたち ― ヌレエフ、バリシニコフ、ジョルジュ・ドン ―

 次第に跳躍や回転などを盛り込んだ男性ダンサーならではの見せ場も作られるようになりました。男性ダンサーの魅力を前面に押し出した振付も盛んになり、優れたダンサーが活躍するようになりますが、広く一般にも男性バレエダンサーの人気が浸透するのは、ルドルフ・ヌレエフミハイル・バリシニコフといった旧ソビエトのスターダンサーが西側に亡命し、バレエ界のみならず映画やテレビの世界でも大活躍したことがきっかけでした。特にアメリカで活躍したバリシニコフは、立て続けにヒット映画に出演、『愛と喝采の日々』(1977年)、『ホワイト・ナイツ/白夜』(1985年)などで世界のファンを虜にしました。映画『愛と哀しみのボレロ』(1981年)のジョルジュ・ドンの存在も忘れられません。

 また、2000年にはバレエダンサーを目指す少年を主人公にした映画『リトル・ダンサー』が大ヒット、ミュージカル化もされています。

ルドルフ・ヌレエフ

ミハイル・バリシニコフ

ジョルジュ・ドン

◇日本における男性バレエダンサーの注目度

 日本では、英国ロイヤル・バレエ団初の日本人プリンシパルであり、圧倒的なテクニックと表現力、スター性、カリスマ性を併せ持つ熊川哲也が注目されました。彼に憧れてバレエを始める少年や、息子にバレエを習わせたいという母親も増え、やがてボーイズ・クラスが登場。男の子の習い事としてもバレエに注目が集まるようになりました。熊川が金賞を受賞したローザンヌ国際バレエコンクールをはじめ、国際的なコンクールでの日本人ダンサーの優勝、上位入賞や海外のバレエ・カンパニーにおける日本人ダンサーの活躍がニュースやテレビ番組などで取り上げられる機会も増えています。

 さらに、職業としてバレエダンサーを選ぶ意識も定着しました。新国立劇場や、熊川が創設したKバレエ カンパニーなど、規模も大きく公演数の多いバレエ・カンパニーが設立され、バレエダンサーが職業的にも安定してきたことも一因でしょう。

2.バレリーナと男性バレエダンサーの違い

ここで、男性バレエダンサーの特徴や役割について少し説明しましょう。

男性バレエダンサーの役割

 二人で踊るパ・ド・ドゥにおいて、バレリーナをエスコートし、手を差し伸べ、支え、リフトすることは、男性ダンサーの大切な役目です。パートナーの女性が最も美しく見える瞬間を引き出すのです。パ・ド・ドゥの成功はコンビとして二人の息があっていることが大前提ですが、男性のパートナーリング技術によっても大きく左右されます。どの位置に手を差し伸べれば女性が踊りやすいのか、美しく見えるのか、一人ひとりの体格や重心の位置などにも留意しなければなりませんから、パートナーリングの技術は一朝一夕に養えるものではなく、経験を積むことも重要です。

男性が支えるリフト (ペレン、シェミウノフ)

◇男性バレエダンサーの見せ場やテクニック

 一方ソロでは、回転やジャンプなど力強く男性的なテクニックで観客を魅了しなければなりません。同じ回転でも女性の大きな見せ場が片足を軸に立ち、もう一方の脚は空中に振り上げ降ろさずに回り続けるグラン・フェッテであるのに対し、男性の超絶技巧は膝を伸ばした脚を水平に上げたまま回転するピルエット・ア・ラ・スゴンドの連続になります。古典バレエのクライマックスでは、女性のグラン・フェッテ、男性の高速回転が連続して演じられ、華やかなテクニックで観客の心をわしづかみにすることもあります。

 空中で回転するトゥール・アン・レール、大きな跳躍グラン・ジュテを繰り返しながら舞台を周回するマネージュなど、男性ダンサーのダイナミックな技巧は、舞台を華やかに盛り上げます。

男性の力強いジャンプ (ルジマトフ)

男性バレエダンサーの衣装

 男性ダンサーとバレリーナの大きな違いは、トウシューズを履くかどうかという点にあります。例外的な作品を除いて男性がトウシューズを履くことはありません。舞台で男性が履いているのは、レッスンでも履いているバレエシューズです(作品によってはバレリーナもバレエシューズで踊ります)。

 衣装も女性が作品によってさまざまな形のチュチュをつけているのに対し、男性はタイツに短い胴衣であることがほとんどです。美しい脚のラインは男性ダンサーの大きな魅力です。地中海をまたにかける勇壮な海賊が活躍する『海賊』のハーレムパンツや、スコットランドを舞台にした『ラ・シルフィード』のキルトスカートなど、物語の舞台によって独特の衣装を身に着けることもあります。

クラシック・バレエ作品の男性の衣装 (中央:スハルコフ、左:ムロムツェワ)
海賊のハーレムパンツ (ルジマトフ) 

3.有名男性バレエダンサーの紹介

バレエ界のレジェンドたち  ― P.デュポン、ルグリ、マラーホフ、ルジマトフ ―

 「パリ・オペラ座の放蕩息子」と呼ばれ愛されたパトリック・デュポン。2021年3月惜しくもこの世を去りましたが、枠にとらわれないその踊りに再び注目が集まっています。同じオペラ座でもマニュエル・ルグリは品格ある踊り、サポートテクニックも随一でした。ロマンティックな貴公子はウラジーミル・マラーホフ、コロナ禍にいる世界のダンサーたちをサポートするためInstagramで自宅からレッスンを配信、バレエ界に貢献し続けています。舞台に立つたびに熱狂を巻き起こすマリインスキー・バレエ出身のファルフ・ルジマトフはミハイロフスキー劇場バレエの芸術監督に就任した時期もありましたが、あくまでダンサーにこだわって活動を続けています。長年にわたり踊り続けるバレエ界の生きるレジェンドです。

パトリック・デュポン

マニュエル・ルグリ

ウラジーミル・マラーホフ 

ファルフ・ルジマトフ

世界の有名男性バレエダンサーたち20選 ―ボッレ、ガニオ、ムンタギロフ、ポルーニン、ロヂキンほか―

 マルセロ・ゴメスロベルト・ボッレら端正でかつ情熱的なラテン系ダンサーたちも男性ダンサー人気に拍車をかけました。先に挙げた映画「リトル・ダンサー」で成長した主人公を演じたアダム・クーパーは、ミュージカルでも活躍しています(写真:ミュージカル「雨に唄えば」)。ウクライナ出身で新国立劇場のゲストも務めたデニス・マトヴィエンコも息の長いダンサーとして活躍を続けています。

アダム・クーパー

デニス・マトヴィエンコ

 パリ・オペラ座のエレガンスを体現するマチュー・ガニオ、テクニックにも優れた正統派ダンスール・ノーブルのレオニード・サラファーノフ、甘い雰囲気を残しながら成熟した味わいでも魅せるフリーデマン・フォーゲル、アイドル性と卓越したテクニックで人気を誇るダニール・シムキン、英国ロイヤル・バレエ団きってのダンスール・ノーブルであるワディム・ムンタギロフ、繊細にしてエネルギッシュなマリインスキー・バレエのウラジーミル・シクリャローフ、ボリショイ・バレエの伝統を受け継ぐウラディスラフ・ラントラートフ…、世界のトップダンサーの舞台を心待ちにしているファンがたくさんいるでしょう。 

マチュー・ガニオ

レオニード・サラファーノフ

ワディム・ムンタギロフ

 男性的な魅力を増しレパートリーも広げているボリショイのデニス・ロヂキン、力強いテクニシャンのキム・キミンやイギリス出身のザンダー・パリッシュらマリインスキーのプリンシパルにも注目です。オペラ座では、緻密でクリアなテクニックで魅了するマチアス・エイマン、またジェルマン・ルーヴェユーゴ・マルシャンは舞台だけでなくショーやヴィジュアル広告などファッションの世界にも進出。ドキュメンタリー映画や動画で話題となったセルゲイ・ポルーニンも目の離せない存在です。アメリカ出身、恵まれた容姿と正統派の実力を生かし国際的に活躍するジュリアン・マッケイのセルフプロデュース力も見逃せません。マシュー・ボーン振付の『スワン・レイク』にゲスト出演し、衝撃的な演技で度肝を抜いた英国ロイヤルのマシュー・ボールも注目の存在です。

デニス・ロヂキン 

セルゲイ・ポルーニン

ジュリアン・マッケイ 

世界で活躍した日本人男性バレエダンサーの先駆者たち ―熊川哲也、岩田守弘、堀内元―

 日本人ダンサーでは、やはり熊川哲也。帰国後、自身のカンパニーを立ち上げ、日本におけるバレエ人気を不動のものとしました。古典の改定やオリジナル作品も数多く手がけており、高い芸術性を保ちながらかつ分かりやすい演出で多くの観客を魅了し続けています。熊川と同世代の岩田守弘はボリショイ・バレエ団で活躍。現在のように外国人に門戸が開かれる前のロシアで、日本人ダンサーが役を得るのも並大抵のことではありませんでしたが、岩田は粘り強く努力を続け独自の地位を築きあげ、ソリストに登りつめました。現在は、アジア人として初めてロシアの国立劇場を任され芸術監督として活躍を続けています。アメリカ、ニューヨーク・シティ・バレエでプリンシパルとして活躍した堀内元は、バランシンの薫陶を受けた後、ミュージカルでもブロードウェイやウェスト・エンドの上演作品に出演。また、長年に渡りセントルイス・バレエ団の芸術監督として活躍しています。

熊川哲也

岩田守弘

堀内元

◇世界で活躍する日本人男性バレエダンサーたち ―服部有吉、平野亮一、江部直哉ほか―

 彼らパイオニアに続き、多くの日本人バレエダンサーが海外で活躍しています。ハンブルク・バレエ初の東洋人ソリスト服部有吉は、『冬の旅』に主演するなどノイマイヤー作品になくてはならないダンサーとして活躍、振付家としての活動も行い現在はカナダのアルバータでバレエ学校を主催しています。英国ロイヤル・バレエ団において、熊川に続く史上二人目の日本人男性プリンシパルとなったのは平野亮一。ナショナル・バレエ・オブ・カナダのプリンシパル江部直哉は、体操のオリンピック育成コース出身です。ペルミ国際バレエコンクール第一位、モスクワ国際バレエコンクール金賞受賞の大川航矢、芸術監督だったルグリによってウィーン国立バレエ団のファースト・ソリスト(同バレエ団の最高位)に任命された木本全優はウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートにも出演しています。

世界で活躍する男性バレエダンサーの一部を挙げましたが、日本国内で活躍する日本人バレエダンサーたちも大勢います。また海外で経験を重ねた後日本に活動の場を移しさらに活躍する日本人ダンサーたちも増えています。今後一層の活躍が期待される男性バレエダンサーに是非注目してください。

文・守山実花(バレエ評論家)

(写真:アンジェラ加瀬、瀬戸秀美(光藍社過去のプログラム、公演より))



ヨーロッパの名門バレエ団で活躍中のダンサーが出演し、夢の競演を果たします!

■「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年8月3日~8月4日
【開催地】東京

■「バレエの妖精とプリンセス ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年7月26日~8月12日
【開催地】神奈川、群馬、愛知、大阪、宮城、秋田 ほか

その他の公演情報

■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定 ※詳細は24年8月発表予定

■ ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月開催予定
※詳細は2024年7月発表予定