ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」にタイトルロールで出演決定!細谷海斗さんスペシャル・インタビュー

ジョージア国立バレエで最高位であるリーディング・ソリストとして活躍中の細谷海斗さん。12月の来日公演『くるみ割り人形』では、タイトルロールで出演予定です。ロシアのモスクワ国立バレエ・アカデミーへ留学後、ロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場に入団。ロシアで磨き上げられた基礎や目を見張るテクニックが魅力の今注目の若手ダンサーです。ロシアへ留学し、プロとして過ごした日々、そして現在のことまでお話を伺いました。

≪秋田からバレエ大国ロシアへ≫

僕の母親が、秋田県の佐藤洋子バレエスクールでバレエを習っていたこともあり、2歳半から自然とバレエを始めていました。小学校1年生からは、主宰の洋子先生の息子さんである毅先生にも教わりました。地元には男性の先生が少なかったので、同性の先生から習うことができたのは、恵まれたことだったと思いますし、成長にもつながったと思います。

コンクールに出場するようになると、同世代の男の子たちの踊りが刺激となって、レッスンにもこれまで以上に真剣に取り組むようになりました。

本格的にバレエの道に進むことを考え始めたのは、12~3歳のときのことです。エレーナ・レレンコワ先生の講習会で、先生からロシアのモスクワ国立バレエ・アカデミー(通称ボリショイ・バレエ・アカデミー)への留学をすすめてもらいました。僕はすぐにでも行きたいと思ったのですが、両親とも相談して、中学校卒業と同時に留学しました。

佐藤洋子バレエスクール発表会にて

発表会前の練習にて

留学生活は、辛いと感じる暇もないほどスケジュールが詰まっていて、無我夢中で3年間を過ごしました。モスクワ国立バレエ・アカデミーは外国人も多く、国際色豊かではありますが、ロシア人の生徒は厳しい入学試験をクリアして9歳から学んでいます。卒業までに何度か大きい試験があり、途中で退学となる子もいます。僕の時は、ロシア人の男の子はクラスで一人しか残りませんでした。それが、今ボリショイ・バレエで活躍しているドミトリー・スミレフスキーです。さらに、同じくボリショイ・バレエのエリザヴェータ・ココレワも同じクラスでした。二人とも、いまやボリショイ・バレエのプリンシパルです。未来のボリショイ・バレエのダンサーを育てるという意味でも、学校は厳しかったですが、クラシック・バレエだけではなく、キャラクター・ダンスや演技なども学ぶことができ、今の自分の踊りのベースを作ってもらいました。

エリザヴェータ・ココレワとクリスマスコンサートにて

モスクワ国立バレエ・アカデミー留学時

≪ロシアでのプロダンサー生活≫

卒業後は、ロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場に入団しました。当時のバレエ団は、デニス・マトヴィエンコやファルフ・ルジマトフが芸術監督を続々と退任し、芸術監督不在が続き、バレエ団をまとめるのが大変な時代でした。

その後レオニード・サラファーノフが芸術監督となりました。彼は教え方も分かりやすく、バレエ団をまとめるリーダー的なセンスもあって、周りからも信頼されていましたね。彼自身も現役で踊っていたので、間近で踊りを見て学んだことも多いです。

リハーサル時間が短い中で年間220公演もあり、ハードではありましたが、充実した日々でした。公演数が多いことで、舞台慣れもしてきて、気持ちのコントロールや身体の力の抜き方も身につきました。実はジョージア国立バレエで初めて主役を踊った時は、急遽の代役だったのですが、ノヴォシビルスクでの経験が活きて、10日くらいで覚えて無事に踊り切ることができました。

ロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場
「チッポリーノ」より
ロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場
「ラ・バヤデール」より

≪ステップアップになったジョージア国立バレエへの移籍≫

移籍のきっかけは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻です。最初は自分の生活基盤が揺らぐほどのことでもなかったのですが、徐々に事態が緊迫してきて帰国せざるを得ませんでした。そして、この機会に他のバレエ団に行くのも視野を広げる機会になると思い、オーディションを受けてジョージア国立バレエに入団しました。

ノヴォシビルスクとの違いは、やはり公演数でしょうか。ジョージア国立バレエは年に60公演程度のほか、数回の海外ツアーがあります。海外ツアーは、僕にとって新しい仕事だったのですが、連日踊ったり、移動など大変な面があったりしつつも、色々な国に行くことができるので良い経験になっています。

バレエ団は先輩や後輩、階級は気にせず、皆仲が良くてアットホームな雰囲気です。芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリは、ダンサーたちに指導も行います。厳しいところもありますが、とにかくパワフルで、自分の教えられることを全力で伝えてくれます。ダンサーたちからも慕われていて、とても明るいキャラクターで、エネルギーをもらいます。

リーディング・ソリストへは2023年に昇格しましたが、実はホームページでそのことを知りました(笑)昇格したことで、より責任も感じるようになりました。何よりもお客様を不安にさせてはいけないので、良い意味で自分に自信を持って踊ることを心がけています。

僕は主役も踊りますが、どちらかというとマキューシオやくるみ割り人形など、準主役を踊る方が多いです。ダンサーの中には劇場の顔になるタイプもいますが、僕自身はそうではないと思っています。ですが、脇にいてもその人にしか出せない味があるダンサーもいますよね。全幕バレエは一人ではできるものではなく、色々な役があって物語として成立します。だから、縁の下の力持ちとして支える人は絶対に必要ですし、僕は脇で強烈な印象を残せるようなダンサーを目指していきたいです。

ジョージア国立バレエ劇場内で
ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」

≪非日常感を味わえる劇場での鑑賞≫

僕は生の舞台が大好きで、学生時代には何度もボリショイ・バレエを観に行きました。舞台は、もちろん時には失敗もあるけれど、それも含めてその「リアルさ」にワクワクしませんか?現在は簡単に動画が見られる時代ですが、動画は良いところしか切り取らなかったりするので、緊張感が伝わりにくいと思います。動画では分からない足音や息遣いが聞こえてくる臨場感はバレエの面白さの一つでもあるので、ぜひ劇場で体感していただきたいです。

今回自分のバレエ団と一緒に、日本で、更に自分のふるさと秋田でも踊れるのは、人生を通しても貴重な機会だと思っています。この機会を通して、僕が今までやってきたこと、成長した姿をご覧いただき、支えてくれた皆さんに恩返しができたら嬉しいです。そして、ご来場いただくお客様には、非日常の特別な2時間を楽しんでいただきたいと思います。『くるみ割り人形』は、起承転結がしっかりしていて、老若男女問わず楽しめるバレエです。ぜひ、生のバレエを観にきてください!

細谷海斗
(ジョージア国立バレエ/リーディング・ソリスト)

モスクワ国立バレエ・アカデミーで学び、2019年にロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場へ入団。2022年にソリストとしてジョージア国立バレエに移籍し、翌年に最高位であるリーディング・ソリストへ昇格。主なレパートリーは、「ドン・キホーテ」バジル、「ロミオとジュリエット」マキューシオ、「白鳥の湖」ベンノ、「くるみ割り人形」くるみ割り人形、「眠れる森の美女」青い鳥など。


【公演情報】


2024年12月に、ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」の公演が開催されます。公演情報は、下記をご覧ください。

伝説のプリマ、ニーナ・アナニアシヴィリが
20年の時をかけ育んだバレエ団。
充実期を迎えた今、ついに12年ぶりの再来日!

■ ジョージア国立バレエ 「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月5日~12月27日
【開催地】東京、千葉、埼玉、神奈川、群馬、栃木、静岡、長野、宮城、山形、秋田、福島、新潟

その他の公演情報

■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定
公演情報を公開中!
https://www.koransha.com/ballet/ukraine_ballet/