Ballet Muses ₋バレエの美神(ミューズ) 2023- 出演者インタビュー Vol.2 吉山シャール ルイ・アンドレ

2022年10月、アメリカ屈指のバレエ団ヒューストン・バレエの初来日公演が行われ、8年ぶりとなるアメリカのバレエ団による圧巻のパフォーマンスに会場は熱狂の渦に包まれた。中でもひときわ存在感を放っていたのが、当時、同バレエ団のプリンシパルだった吉山シャール ルイ・アンドレだ。吉山はヒューストン・バレエをその年の12月に退団。2023年1月からポートランドのオレゴン・バレエ・シアターに活動の拠点を移したのち、9月からはスイスの名門チューリッヒ・バレエに移籍した。さらに今年11月には世界各国から人気ダンサーを集めたガラ公演「Ballet Muses-バレエの美神 2023-」に出演する。バレエ人生の転換期ともいえるいま、彼は何を考え行動しているのか、今回はヒューストン・バレエの来日公演以降の話を聞いた。


Q. 改めて、2022年10月に開催されたヒューストン・バレエ初来日公演「白鳥の湖」の舞台はいかがでしたか?

ヒューストン・バレエにとって初めての日本公演で、コロナ禍以降初の海外ツアーでもあったため、バレエ団全体で気合が入っていた公演でした。僕自身もこの公演をモチベーションにしてヒューストン・バレエでの活動を続けてきたこともあり、本番ではすべてを出し切ることができたため、アメリカに帰国後もしばらく余韻に浸っていました。まさに一つの❝節目❞のような公演でしたね。

2022年10月ヒューストン・バレエ日本公演「白鳥の湖」
サラ・レインと主演

Q. ヒューストン・バレエでの最後の公演は何でしたか?

僕がヒューストン・バレエで初めて主役をもらったのは「くるみ割り人形」だったのですが、最後の公演も、同じ「くるみ割り人形」でした。14年いたヒューストン・バレエのラストステージでしたが、変なプレッシャーも感じず、伸び伸びと踊ることができました。自分で「やり残したことは無い」と思えるほど、完全燃焼できた公演です。僕のパフォーマンスを評価してくれたヒューストンのお客さんからもあたたかな拍手を頂き、最後は日本人らしく、ステージ上で座礼をして14年分の感謝を伝えました。

Q. 2023年1月に移籍したオレゴン・バレエ・シアターはどんなバレエ団でしたか?また入団のきっかけなども教えてください。

まず、プロになってから他のカンパニーに入ったことがないので、「ヒューストン・バレエ以外のカンパニーへ入団した」ということ自体が、僕の視野を広げる良い機会になりました。
オレゴン・バレエ・シアターは、移籍してきた僕をあたたかく迎え、怪我で休んでいる時もサポートをしてくれて、とても働きやすい環境でしたが、ヒューストン・バレエと比べるとプロダクションへの予算は少なく、レパートリーも少なく、ダンサーの待遇も違っていました。離れてみて、改めてヒューストン・バレエのダンサーは恵まれていると感じましたね。

実はヒューストン・バレエの日本公演の前、2022年4月にはオレゴン・バレエ・シアターへ移籍することを決めていました。入団するきっかけとなったのは、ヒューストン・バレエで2012年まで共に踊っていた元同僚で、僕の兄的存在であるピーター・フランクがインターンとして芸術監督をしていたからです。彼はトップに立ち、人を引っ張って行く能力に長けているだけでなく、ダンサーとのコミュニケーションを大切にしていて、皆からの人望も厚く、僕は彼のそういったリーダーシップを近くで学びたいと思ったんです。

しかし、残念ながら入団した初日にピーターが芸術監督にならず、オーストラリア出身の女性振付家が新しく芸術監督に就任することが公表されました。今のアメリカでは、団体や会社の役員に女性を雇用するという一つの流行りがあり、バレエ界でもその傾向が広がっているように感じます。そういった経緯もあり、実は2022年12月にオファーを貰っていたチューリッヒ・バレエへ移籍することに決めました。

Q. チューリッヒ・バレエとの出会いについてもお伺いできますか?コンテンポラリー作品のレパートリーが多いことで有名なバレエ団ですね。

なぜここでチューリッヒ・バレエが出てくるかというと、2023-24シーズンから芸術監督に就任するキャシー・マーストンとの出会いから始まります。

キャシーはヒューストン・バレエに作品を提供するため、2021年10月にヒューストンに実際に来て、作品全体からキャラクターの人物像に至るまで、彼女の創作意図をダンサー達に共有してくれました。その際、僕は彼女の話を聞く機会をとても新鮮に感じ、彼女のクリエーションのアプローチに興味を持ちました。キャシーがヒューストン・バレエに振り付けた新作、テネシー・ウィリアムズの戯曲を基にした「Summer and Smoke(夏と煙)」は、僕が退団した後の2023年3月にヒューストンで上演されたので、オレゴン・バレエ・シアターに移籍することが決まっていた僕は、残念ながらその作品に関わることが出来なかったのですが、実は2022年10月、そのリハーサルのためキャシーがヒューストンに来ていた際に、「あなたをこの作品の主役にしたかった」と言ってくれたのです。

そして自分たちのバレエに対する意見交換も行い、そうした中で僕はこの人と一緒に仕事がしたいと強く思うようになりました。それで彼女にチューリッヒ・バレエについて話を聞いてみたら、なんとダンサーを探しているタイミングでした。ありがたいことに、バレエ団の最高位であるファースト・ソリストの枠を僕のために増やしてくれて、2022年12月にチューリッヒ・バレエから正式なオファーをもらいました。

その後、先ほどお話したように紆余曲折ありましたが、ようやく8月からチューリッヒに行って、本格的に活動を開始しました。チューリッヒ・バレエのレパートリーは、一度も踊ったことが無い作品ばかりです。毎回の公演が新しいチャレンジになるので、今からとてもワクワクします。

ギャレット・スミス振付「Reveal」
ヒューストン・バレエのジェシカ・コリャードと

Q. 新天地でのご活躍が期待されますが、11月には「バレエの美神 2023」へご出演いただきます。今回披露する「PIEL」(Aプロ)、「Ghost Light」(Bプロ)、「Solace」(A/Bプロ)はどのような作品でしょうか。

オファーをいただいたとき、このガラ公演では自分が得意とするコンテンポラリー作品を踊りたいと思いました。今回はヒューストン・バレエ時代に親交があった2人の振付家の作品を披露します。

まず、「PIEL」は、ヒューストン・バレエの現役ダンサーであるジャック・ウォルフがコロナ禍に振り付けした作品です。まだ20代前半ですが、彼の作った「PIEL」は、ヒューストン現地でも大好評で、コンクールの課題作品になったりしています。照明と踊りが調和したとても美しい作品で、何よりかっこいい!いつか自分も踊ってみたいと思っていましたし、ヒューストン・バレエの若い才能を日本の皆様に観ていただく良い機会だと思い、この作品を選びました。

「Ghost Light」と「Solace」は、かつてヒューストン・バレエに所属し、今や世界中のバレエ団に作品を提供する振付家となったギャレット・スミスの作品で、特に「Ghost Light」は2018年に僕のために作ってくれた作品です。ギャレットがイメージしている動きを僕が踊って、動作と動作のつなぎは僕が踊りながら組み立てて…と一緒に試行錯誤しながら作り上げました。この作品は、公演が終わった舞台上に、ゴーストライトと呼ばれる一つの電球だけを残した様子をテーマにしています。劇場には演者・お客様・振付家などのそれぞれの思いがしみ込んでいて、その魂のようなものが、ゴーストライトによって照らされ、作品の中で可視化されています。

「Solace」は、ギャレットが当時ボリショイ・バレエに所属していたオリガ・スミルノワとヤコポ・ティッシのために創作した作品です。「Ghost Light」と同じ振付家ですが、まったく違う印象を与える作品です。僕自身初めて踊る作品ですし、ナターシャ・マイヤーとも初めて一緒に踊ります。リハーサルの時間は限られていますが、ナターシャとギャレットと一緒に、日本のお客さんに感動していただけるように仕上げていきたいと思います。

本公演で披露するギャレット・スミス振付「Ghost Light」

Q. 最後に日本のお客さまへメッセージをお願いします。

世界のトップダンサーたちと同じ舞台に立てることを光栄に思うと同時に、彼らとの共演をとても楽しみにしています。僕がコンテンポラリー作品にこだわるのは、古典作品では見られないような、動きの種類や組み合わせがあり、想像力をかきたてるような面白さがあるからです。
お客様にとっても、新たな発見があるかもしれません。ぜひ古典作品との違いをお楽しみください!

文・インタビュー:光藍社
写真提供:吉山シャール ルイ・アンドレ



ヨーロッパの名門バレエ団で活躍中のダンサーが出演し、夢の競演を果たします!

■「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年8月3日~8月4日
【開催地】東京

■「バレエの妖精とプリンセス ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」
【公演期間】2024年7月26日~8月12日
【開催地】神奈川、群馬、愛知、大阪、宮城、秋田 ほか

その他の公演情報

■ ウクライナ国立バレエ「ジゼル」ほか
25年1月開催予定 ※詳細は24年8月発表予定

■ ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」
【公演期間】2024年12月開催予定
※詳細は2024年7月発表予定