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ベートーヴェンの「第九」ほど音楽の力を感じられる交響曲があるだろうか。この曲には人を惹きつける魅力がある。私たちの日常では出会う事のない感動を超えるものがそこにあるのだ。ドイツの詩人で思想家であったシラーの作品をこよなく愛読していたベートーヴェン。シラーの作品の根底には、自由を求める不屈の精神が流れている。ベートーヴェンがこのシラーの詩『歓喜に寄す』に音楽をつけようと思い立ってから完成までに約30年、交響曲の第4楽章に独唱と合唱、すなわち人間の声を入れるというのは当時では他に類を見ない手法であったが、それがベートーヴェンの最高傑作となった。作曲家でありながら聴力を失ったベートーヴェン。運命を受け入れた苦悩の天才によって創られた暗闇と混沌からの輝く希望、そして崇高な“人類愛”。第4楽章でバスによって歌われる最初の歌詞はシラーではなくベートーヴェンによって書かれている。“おお友よ、このような音ではない!もっと心地よい、もっと喜びに満ちあふれた歌を歌おうではないか”。そしてシラーの詩の独唱を始め、やがて合唱団、ソリスト達へと引き継がれる。“すべての人々は兄弟となる”、“抱き合え、幾百万の人々よ”-。自由、平等、平和と友愛を求め、荘厳でドラマティックに歌い上げられる圧巻の‘‘歓喜の歌”。私たちに湧き上がる力、明日への希望を与えてくれるだろう。
今回の公演では、交響曲第5番「運命」も演奏される。「運命」は、特徴的な冒頭のモチーフを巧みに用いた構成力で、その形式美は交響曲随一とも呼ばれており、耳の病に絶望し“ハイリゲンシュタットの遺書’'を書いてもなお、果敢に運命に立ち向かって行こうとする作品でもある。2024-25年のシーズンは創立157周年を迎えるウクライナ国立歌劇場。困難な状況にありながらも芸術家、表現者としての姿勢を貫く強い想いと共に来日する、彼ら渾身の演奏をどうぞお聴き逃しなく。
ベートーヴェン
交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」
ベートーヴェン
交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱付き」
ウクライナ国立チャイコフスキー記念キーウ音楽院で学び、R.コフマンに師事。1986年から88年までロシアのオムスク交響楽団の首席指揮者を務めた。1988年に初めてウクライナ国立歌劇場で指揮、2011年に同歌劇場の音楽監督、2013年には首席指揮者となった。同歌劇場のほか1996年よりウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団の音楽監督も務める。ウクライナのクラシック界を代表する指揮者となっている。ウクライナ人民芸術家。
ウクライナ国立歌劇場管弦楽団は1834年に誕生した歴史と伝統を誇るオーケストラ。1880年代にはチャイコフスキーを劇場に招いて、オペラ「スペードの女王」「エフゲニー・オネーギン」などを上演し、成功をおさめた。1891年にはチャイコフスキー自身の指揮で彼の作品を上演し、キーロフ劇場やボリショイ劇場に続く劇場として称賛した。そのほか、リムスキー=コルサコフ、ラフマニノフ、グリエール、グラズノフ、ショスタコーヴィチなど錚々たる作曲家がこのオーケストラを指揮している。ヴェルディ、プッチーニ、チャイコフスキー、ムソルグスキーなどのオペラ作品、チャイコフスキーのバレエ作品をはじめ、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーなどの交響曲も演奏。オイストラフ、ギレリスなどの巨匠とも共演している。ドイツ、フランス、ポーランド、スイスなどヨーロッパ各地でも公演を行い好評を博している。
関屋 晋を常任指揮者とした合唱団の集合体として活動を開始。現在コーラスマスターは清水敬一が務め、オーケストラとの共演を主たる活動としている。1980年小澤征爾指揮•新日本フィル/マーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》共演に際し、晋友会合唱団としてデビュー。ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ウクライナ国立歌劇場管などと共演。レパートリーは古典派・ロマン派から現代作品まで幅広く、国内外から注目を浴びている。
早稲田大学理工学部電気工学科卒業。指揮法を遠藤雅古、V.Feldbrill、合唱指揮を関屋 晋の各氏に師事。国内外の音楽祭・作曲コンクール・合唱コンクールの審査員を歴任。著書に『合唱指導テクニック』、『合唱指揮者という生き方-私が見た「折々の美景」』。現在、全日本合唱連盟およびJCDA日本合唱指揮者協会理事、東京芸術大学附属音楽高等学校講師。
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