コレスニコヴァがロヂキン、ムンタギロフと「白鳥の湖」全幕共演！
（８月１３日～２３日ロンドン公演）

「バレエはロシア！」「一生に一度バレエを観るのならロシアの著名バレエ団の公演や有名バレリーナの舞台を観たい！」というのは、シェイクスピアを生んだイギリスの国民の間でも根強い感情で、毎夏ロンドンで行われるロシアのバレエ団による公演は人気が高い。
一昨年のボリショイ、去年のマリインスキーに次いで、今年の夏にロンドンを訪れたロシアのバレエ団はサンクトペテルブルグ・バレエ・シアター（ＳＰＢＴ）。かつてディアギレフ率いるバレエ・リュッスも公演した事のある、歴史由緒ある大劇場ロンドン・コロシアムでの開催。
「イリーナ・コレスニコヴァ・ロンドン・シーズン」と題された今回の公演の話題は、充実の極みを見せるバレエ団の名花コレスニコヴァが、ボリショイのリーディング・ソリストのデニス・ロヂキンと、ロイヤル・バレエのプリンシパルであるワディム・ムンタギロフの２人と全幕共演する事。ロヂキンとは８月１３日のロンドン公演初日の「白鳥の湖」から千秋楽の「ラ・バヤデール」まで１０公演の共演。ムンタギロフとは８月２０，２１日に「白鳥の湖」を２公演で共演した。

コレスニコヴァ＆ロヂキン

初日当日の13時からのゲネプロ撮影で、コレスニコヴァとロヂキンが組む姿を見て、このペアがバレエ界でも有数の美しい組み合わせである事を確信した。翌１４日「白鳥の湖」での共演では、２幕の湖畔の場面や４幕での２人の踊り、静謐な佇まいの中に見事なまでに浮き彫りにされる愛の深さに魅せられた。また、３幕の妖艶なオディールと清楚なオデットの２つの顔を巧みに使い分けるコレスニコヴァ、そして翻弄される若き王子を演じ踊るロヂキンの激情に心を揺さぶられた。 これまでボリショイ・バレエの新星としてザハロワと踊るロヂキンを何度か観ているが、感情表現が淡泊なザハロワとロヂキンの間には決して見る事の無かったロヂキンの演技面での開眼は、「白鳥の湖」で世界的に知られるコレスニコヴァの円熟が引き出した物なのだろう。この２人の間には確かなケミストリー（化学反応）が存在し、それが「白鳥の湖」という愛のバレエをより感動的な物にしていた。

ムンタギロフ

8月20日はコレスニコヴァとムンタギロフの「白鳥の湖」初共演の舞台に立ち会う事が出来た。ロヂキンのジークフリートが20代の若き王子なら、ムンタギロフのジークフリートは10代の少年の魅力を随所に漂わせる甘やかで無邪気な王子であった。ロシア人でありながらローザンヌ国際コンクールの縁でロイヤル・バレエ・スクールに学び、イングリッシュ・ナショナル・バレエから英国ロイヤル・バレエのプリンシパルに迎えられた彼だけに、シェイクスピアの国で活躍する貴公子ダンサーらしい細かな演技力と美しい手脚のライン、香気あふれるエポールマンや正確なバレエのポジションといったアカデミズムが強く印象に残った。純粋な10代の若者が初めて女性に寄せる愛、邪悪な力に阻まれながらも悪を打ち破り愛する女性を救おうとする必死で健気な姿が、コロシアム劇場に集まった世界各国からの観客の心を掴んだ。
また若手ながらバレリーナを最も美しく見せるパートナー技術が巧みなムンタギロフは、13日の初日以来ほぼ毎晩全幕を踊るコレスニコヴァを巧みにサポートしていた事も忘れてはならない。

今年のSPBTロンドン公演は、話題が話題を呼んで「白鳥の湖」が連日ほぼ完売の大変な人気。バレエ団とコレスニコヴァは、来年「ドン・キホーテ」と新作「カルメン」「ガラ・コンサート」の３演目を持って来年再びロンドン公演を行う予定である。
盛況だったこのロンドン公演の直後に、SPBTは同じくロヂキンとムンタギロフをゲストに「白鳥の湖」と、さらに「眠れる森の美女」全幕の東京初演を行う。日替わりでロヂキンのロットバルトの姿も見られるとあって逸る心を抑える事が出来ない。この古典バレエの名作２つをコレスニコヴァ、ロヂキン、ムンタギロフの主演で観る事が出来るとは、日本の観客は何と恵まれている事か。ベテランのコレスニコヴァが若き新星２人と共に新境地を切り開く姿は、この秋必見のバレエ公演といえよう。

• ムンタギロフ 「白鳥の湖」
• ロヂキン 「白鳥の湖」
• ムンタギロフ 「眠れる森の美女」